日本のお弁当は、海外の方から「ユニークでおもしろい文化」と高く評価されています。
その反応を見て
「日本のお弁当が海外でユニークだといわれる理由は?」
「どうして日本のお弁当は今のかたちになったの?」
こんな疑問をお持ちになられた方もいらっしゃるでしょう。
日本のお弁当は、仕事や旅のときに食べる間食として誕生したといわれており、時代の変化にともなってかたちを変えて来ました。
そこには日本の手作り文化や、日常の食事を楽しもうとする遊び心と相手への思いやりが影響しています。
この記事では日本のお弁当がどうやって今のかたちになったのか、なぜ海外で評価されているのかを、お弁当が生まれた時代背景と文化的特徴に焦点を当てて説明します。
外国人に驚かれるお弁当の種類や、会議などで外国人にお弁当をふるまう際の注意点についても紹介しますので、外国人をおもてなしするときの参考にしてみてください。
日本のお弁当が生まれた時代背景
子どもからおとなまで、日常の中で楽しめるお弁当。
海外でも「BENTO」という、一つの日本文化として人気があります。
そのお弁当について、まずは生まれた時代背景を紹介しましょう。
始まりは5世紀ごろの間食
日本のお弁当が生まれた時期は諸説ありますが、日本最古の歴史書である『日本書紀』によると、5世紀ごろにはすでにお弁当の原型が存在していたようです。
当時はお昼ご飯を食べる習慣がなく、旅先や仕事の合間に小腹を満たす目的で、簡単な間食として食されていました。
最初はにぎり飯や、お米を蒸して干した「糒(ほしい)」だけだったようですが、戦国時代にはお餅や梅干しなど腹持ちの良さと栄養・防腐効果などが考慮されはじめます。
「お弁当」が定着したのは江戸~明治時代
戦乱の世が終り江戸時代になると、平和になった世の中では建築仕事や商業を生業にする人が増え、町が栄え始めます。
すると大工や農家など、仕事で体力を使う人を中心に、昼食をとる文化が浸透してきました。
またこの頃、庶民の間でも行楽や観劇などへ遊びに出かける人が増え、嗜好を凝らした行楽弁当や幕の内弁当が発展して行きます。
そして明治時代に入ると義務教育制度が始まり、学校へお弁当を持って行く習慣も定着しました。
こうした時代背景のもと、お弁当は簡単な間食から、日常における食事として広まっていったのです。
現代におけるお弁当の文化的特徴
長い歴史の中、その時代に合ったかたちへ変化してきた日本のお弁当。
海外の方からは「すごい」とか「ユニークだ」といった驚きの声が寄せられます。
そんな日本のお弁当が現代のかたちを成したのには、次のような文化的特徴が大きく影響しています。
- 手作り文化
- 一汁三菜
- 専用のお弁当箱・飾り
- お弁当用の冷凍食品・加工食品
それぞれ説明しましょう。
手作り文化
海外では日常的に、外食やテイクアウトを利用する習慣があります。
一方、日本では大半の人が自ら手作りし、それを「当たり前」と考えている傾向があります。
内閣府の調査でも、国内の家庭における自炊率は、一人暮らし世帯を含めても90%を超えているほど。
日本人の多くは「もったいない」志向・節約志向が高く、費用の掛かる外食よりすでにあるの食材で自炊していたことが、手作り文化が発展した一因と考えられます。
あわせて自炊だと食べる相手ごとに体調や好みを反映できるため、手作り弁当が一つの「愛情表現」と考えられていることも、お弁当の手作り文化が主流となった要因でしょう。
そんな前提の違いもあり、日本の手の込んだ手作り弁当に対する海外の反応は、驚きと感動に満ちています。
参考:内閣府 世帯類型に応じた高齢者の生活実態等に関する意識調査結果(全体版)
一汁三菜文化
日本では古くより、食事の理想形として「一汁三菜」が挙げられていました。
これは主食であるごはんに加えて、一汁=味噌汁などのスープ類1品、三菜=メインおよび副菜3品の構成を指します。
栄養バランスや彩りの豊かさはもちろん、さまざまなおかずを食べる楽しみも叶う一汁三菜の考えは、お弁当にも活きています。
たとえばメインに肉や魚をいれたら、副菜は異なる食材・調理法で野菜を主役にする、など。
小さなお弁当箱に収まったおかずたちには、一汁三菜を基盤とした、外出先でも食事を楽しめる工夫と栄養バランスへの配慮が詰め込まれているのです。
専用のお弁当箱・飾り
海外では、日常におけるお弁当の入れ物は、タッパーやペーパーバッグも珍しくありません。
しかし、日本のお弁当は専用の「お弁当箱」に入れるのが特徴です。
お弁当箱は色やサイズ・形状もさまざまで、おかずを入れるためのカップなどと組み合わせるととてもカラフルに仕上がり、見た目から楽しませてくれます。
これは日本人が器や道具に愛着をもち、昔から料理の入れ物も装飾の一部として捉えていることに由来します。
そして「これはお父さんのお弁当箱、これはお姉ちゃんの…」といったように、それぞれ人によってお弁当箱が決まっているのも、属人器文化がある日本ならではといえるでしょう。
日本ではお弁当箱も、大切なお弁当を演出するために欠かすことのできない、重要なアイテムなのです。
お弁当用の冷凍食品・加工食品
日々、お弁当にさまざまなおかずを詰める文化がある日本。
そんな日本だからこそ、発展した商品として、お弁当向けの冷凍食品や加工食品があります。
日本のお弁当は特別なイベントでも活躍しますが、その多くは日常生活の中で作られ、食べられています。
そんな毎日のお弁当作りを支えているものの一つが冷凍食品や加工食品です。
海外だと自宅での食事用に、大袋や大容量で販売されることが多い冷凍食品ですが、日本では多様なおかずがお弁当に特化したサイズ・形状でも販売されているのが特徴です。
グラタンや揚げ物など、毎日かつ少量作るには手間のかかるものが多く、なかには加熱不要・自然解凍で食べられる冷凍食品も。
同様に、かまぼこやウインナーなどの加工食品もお弁当を手軽に彩れるよう、カラフルなものやキャラクターの絵柄が描かれているものもあります。
国別!各国のお弁当事情
これまで日本のお弁当が生まれた時代背景や文化的特徴を紹介しましたが、他の国ではどのようなお弁当が食べられているのでしょうか?
続いては、各国のお弁当事情を国別にご紹介します。
アメリカ
アメリカでは学校の場合、地域によっても異なりますが、給食とお弁当を自由に選べるスタイルが主流です。
ただし、アメリカの学校は昼食の時間が日本に比べ、十数分程度と短く設定されています。
そのため、素早く食べられるサンドイッチやフルーツと食パン、クラッカーなどが人気です。
これらのお弁当は調理不要、またはカットだけで済むものがメインなので、作り手の手間が省けるのもメリット。
アメリカのお弁当箱は少し前まで、ペーパーバッグやシンプルなタッパーが主流でした。
しかし最近は、日本の「BENTO」が人気なこともあり「BENTO BOX」と呼ばれる、仕切りのついたフタ付きトレーが人気です。
中国
中国は幼稚園から大学まで食堂があり、幼少期からお弁当にはあまりなじみがありません。
そして中国には食事を冷めたまま食べる習慣がなく、また「冷たいご飯は胃に悪い」と考えられています。
そんな風習も手伝って、できたてを食べられる外食やテイクアウトやデリバリーが主流です。
お弁当を持参する場合も、温かい食事を食べられるよう、大抵の職場には電子レンジが設けられています。
お弁当箱も加熱可能なガラス製や保温できるタイプのものが主流で、最近では電熱線による温め機能付きのお弁当箱も登場しています。
日本と比べ、温かい食事へのこだわりが強いといえるでしょう。
韓国
韓国でも日常的にお弁当を手作りする習慣はあまりなく、お弁当の出番は子どものピクニックやイベントごとなど、特別なときに限られます。
お弁当を手作りすることはあっても、キンパ(韓国の海苔巻き)やユブチョバプ(韓国のいなりずし)だけ、ということも。
日本のお弁当と比べると一見シンプルな気もしますが、韓国では買ってきたお惣菜などを含め、会社や学校で持ち寄った食事をシェアする文化があります。
そのため、作った品数は少なくても、最終的にはバラエティ豊かな食事になる傾向があります。
フランス
フランスの学校は基本的に給食スタイルですが、たまのお弁当もパスタやサンドイッチ、サラダなど一品料理が主流です。
フランスも、本来温かい食事を冷えたまま食べる習慣がないため、お弁当の内容は最初から「温かくない料理」が選ばれる傾向にあります。
お弁当箱も専用の容器がないため、タッパーなどが一般的であり、カットフルーツなどはジッパーバッグやジャムの空き瓶にそのまま入っていることも。
しかし近年では、日本の「BENTO」文化が浸透し、フランス国内にも日本のお弁当屋さんやお弁当箱を取り扱うお店が増えつつあります。
台湾
台湾は外食文化が発達しており、朝食から夕食まで全て外食で済ますことも多く、自炊自体が少数派です。
キッチンがない家も珍しくありません。
そのため学生を含めて台湾では、お店で食べる、またはお弁当屋さんのお弁当を購入する人が大半を占めています。
台湾の人たちにとっても「食事は温かいもの」であることが前提なため、お弁当も温かいものが売られているのが特徴です。
学校によっては保温庫が用意されており、朝買ったお弁当も温かいまま食べられるのだとか。
また台湾には駅弁もあり、内容も日本によく似た具だくさんな商品が多くみられますが、器は旅先で邪魔にならないようシンプルなものが主流です。
日本だけ?!外国人に喜ばれるお弁当の種類
日本にもさまざまなお弁当の種類がありますが、なかでも特徴的な、外国人が驚き・喜ばれるお弁当の種類をご紹介します。
キャラ弁
日本のユニークなお弁当として、海外からも特に注目されているのが「キャラ弁」です。
キャラ弁は、好きなアニメキャラクターやマスコットなどを、おかずの切り方や飾りつけを工夫して描きます。
日本で流行した当初は、子どもを喜ばせようとする作り手の遊び心が始まりでした。
しかし今では自分自身のモチベーションをあげるためだったり、または推し(好きなアイドルやキャラクター)への愛情表現だったりと、年齢を問わず楽しまれています。
なかには芸術性が高く、食べるのがもったいなく感じてしまうものまで。
もちろん海外でも、イベント時に食事をデコレーションすることはあります。
それでも日常のお弁当で、これだけのクオリティを、それも多くの一般人が作っているという点においては「日本特有のお弁当」といえます。
加熱式弁当
加熱式弁当も、日本独自の進化を遂げたお弁当です。
中国でも加熱式のお弁当箱は人気ですが、基本的には家庭用のお弁当箱であり、電熱線で温める仕組みが一般的。
一方、日本の加熱式弁当は、仕出し店や弁当屋さんで購入できる「使い捨ての弁当箱」です。
紐を引っ張るだけで瞬時にお弁当が温められ、その手軽さと便利さ・仕組みの面白さで、海外の方からも人気があります。
仕組みは生石灰と水による化学反応によるもので、使用後はそのまま捨てられる点がメリット。
加熱式弁当であれば、冷めた食事を好まない海外の方にも、外出先で美味しく温かい状態のまま食べてもらえるでしょう。
駅弁
日本では駅弁にも、他に類を見ない特徴があります。
訪れた土地の特産品などが、一つのお弁当で一度に楽しめる駅弁は「そこでしか味わえない」という特別感が魅力です。
海外にも駅弁は売られていますが、いずれもシンプルな使い捨ての器や包装が主流。
一方、日本ではお弁当箱自体が特産品をかたどっていたり、人気キャラクターの限定イラストが描かれていたりと入れ物だけでも楽しめる仕様になっています。
なかには、その特徴的な器に魅せられて、駅弁のお弁当箱をコレクションする人も。
日本の駅弁は、食べる瞬間の楽しみだけでなく、思い出の品としてもひと役買っているのです。
外国人との会議でお弁当を振る舞うときの注意点
このように、海外とは大きな違いがある日本のお弁当事情ですが、ビジネスシーンでは注意が必要です。
日本にはセミナーや研修・会議の参加者をねぎらい、おもてなしするため、参加者へお弁当を用意する習慣があります。
このいわゆる「会議弁当」を振舞うときは、次のようなポイントに注意しましょう。
- せっかくなので日本のお弁当でおもてなしを
- 冷めた白米や煮物は苦手な人が多い点に留意
- 大人数の場合は少数派への配慮を
それぞれ説明していきます。
せっかくなので日本のお弁当でおもてなしを
海外の方へお弁当を振舞うとなると「相手が食べなれた国の料理にした方が良いのでは?」と考えがちですが、それならばむしろ日本のお弁当でおもてなししましょう。
海外の方のなかには、日本の食文化やお弁当文化に興味を持ち、日本食を望まれる方も多くいらっしゃいます。
会議やセミナーとはいえ、せっかくのランチタイム。
日本のお弁当でおもてなしすることで、それを話題に、相手と砕けたトークをするきっかけにもなるでしょう。
冷めた白米や煮物は苦手な人が多い点に留意
海外の人の中には「冷めた白米や煮物が苦手」という方も少なくありません。
そもそも冷めた食事をとる習慣がない国も多く、加えて食べなれない他国の料理となると、さらにそのハードルは上がってしまうでしょう。
同様に佃煮や梅干しなどの漬物も「食べられない」という人は多いので、注意が必要です。
事前に仕出し屋さんやケータリングのお店へ相談したり、加熱式弁当など温かいお弁当を提供したりしましょう。
また無理にお弁当へこだわらず、相手の食文化によっては、ビュッフェスタイルで食事を提供するのも手です。
大人数の場合は少数派への配慮を
大人数での会議やセミナーとなると、異なる文化や考えの方が一緒に参加される可能性があります。
そこで注意すべきなのがベジタリアンやアレルギー、宗教上の決まりで食事が制限されているなど、少数派の方々への配慮です。
少数派の方々へも敬意をもっておもてなしすべく、可能であればあらかじめ参加者の食事に関する制限をチェックしておきましょう。
前もってチェックできないときは、ハラール対応のお弁当や、アレルギー対応のお弁当を一定数用意しておく方法もあります。
いずれも相手の健康や文化・価値観に関する大切な問題であるため、最大限の注意を払いましょう。
日本のお弁当を楽しもう
歴史や文化を取り込みながら、独自に進化してきた日本のお弁当。
そのユニークさには、日本の手作り文化と日常を楽しもうとする作り手の遊び心、そして相手へのおもてなしやねぎらい・感謝といった想いが込められています。
歴史と文化、そして相手を思いやる心を凝縮した日本のお弁当は、きっとこれからも世界の人々を魅了し発展してゆくでしょう。
私たちは日本独自のおもてなし文化を世界の人々に広めるために日夜努力しています。外国人ゲストの接待・おもてなしに関するご相談もお気軽にお問い合わせください。